バッハの森通信第68号 2000年07月20日 発行


巻頭言 「純粋でひたむきな響き」

初めて製作したCDに集まる
感動と共感の輪

 今年5月に、バッハの森が初めて制作したCDをリリースしました。マインデルト・ツヴァルトさん(カウンターテナー)と、ヤン・エルンストさん(オルガン)のデュオ・リサイタルです。

 ヤンは11年前、マインデルトは8年前から、毎年1回5月の連休にドイツから来て、私たちと一緒に音楽をしてくださる「仲間ですから、バッハの森の皆さんにはお馴染みの人たちです。このCDの収録は、バッハの森記念奏楽堂で、当然、アーレント・オルガンを用いて、2年前のワークショップ(講習会)/フェスティヴァル(音楽祭)の翌日から2日間で行われました。ただCDをどのようにして世に出したらよいか知らなかったため、随分時間がかかりましたが、結局、ベルリンのカルペ・ディエムと東京のライヴノーツから同時リリースとなり、バッハの森では、5月4日に記念のデュオ・リサイタルを開きました。当日、ヤンとマインデルトの演奏に感動した参加者が全員このCDを買い求め、後日、素晴らしいCDだという感想を続々と寄せてくださいました。

 問題は、一般の皆さんから、どのような評価と応答をいただくことができるかということでした。不安と期待のうちに6週間ほど過ぎたある日、ライヴノーツの小島さんがファックスで、「レコ芸の準特選になりました。バンザーイ」と知らせてくださいした。ここに、『レコード芸術』7月号の新譜月評欄から抜粋、引用させていただきます。 

○服部幸三氏:「つくば市に創設された市民文化団体バッハの森。その中心になるのが、バッハの森記念奏楽堂に1989年に設置されたアーレント製作のオルガンだ。・・・決して大型のオルガンではないが、プリンツィパル系統のオルガノ・プレーノの響きを中心に、数少ないフルート系やトランペットを配した響きは想像以上に豊かである。・・・曲目は、モンテヴェルディとグランディを別にすれば、すべてドイツ・バロックの宗教曲とオルガン曲だが、CDを聴きはじめてすぐ、このふたりが心の中に深く根を下ろした精神的基盤を共有していることを感じさせる。いや、正直に言って、いまどきめったに接することができないほど純粋でひたむきなバロックの宗教音楽のひびきに心を洗われた。ツヴァルトは、美しく澄んだ柔らかな声で、宗教曲のひとつひとつが持つ内面的なパトスを抑えながら、歌詞のすみずみまで心を配る。いっぽうエルンストは人柄をしのばせる気取りのない清潔な演奏で、多すぎるとは言えないストップを上手に効果的に生かしてひいている。ふたりのアルテルナティム(交互唱・奏)によるシャイトの《マニフィカト》が、互いに通じあうものを余韻にひびかせて、ことのほか美しかった」

○皆川達夫氏:「・・・ツヴァルトの歌声は強靱で手がたく、これらの楽曲に似つかわしい。特に詩編6によるフランクの《ああ主よ、あなたの怒りで》で、12分以上もする長丁場をふかい祈りで見事に歌いきっている。・・・解説書の歌詞対訳に声楽曲ばかりでなく、オルガン用に編曲されたコラールの原歌詞まで添えられているのは、卓見である。コラール編曲の理解には、その原歌詞の理解が不可欠の前提だからである」

 このような高い評価を二人の著名な音楽学者から頂いたことを、ヤンとマインデルト、それにバッハの森の皆さんとご一緒に素直に喜びたいと思います。このCDは、今年で16年目を迎えるバッハの森の活動の中から生み出された一つの成果ですから。

 それにしても大変嬉しかったのは、お二人の批評家が、バッハの森が目指してきた音楽に感動を覚え共感を示してくださったことです。「精神的基盤の共有」「純粋でひたむきなひびき」「ふかい祈りで歌いきる」「コラール編曲の理解にはその原歌詞の理解が不可欠」等々は、いつもバッハの森で語り合っていることに他なりません。私たちがひっそりと追い求めてきた、バロック時代の教会音楽をめぐる感動に共感する輪が、このCDを通して、広く広がっていく予感を覚えます。 

(石田友雄)

1999年度 報告と展望

 99年度も、学習プログラムと音楽教室の地道な活動が続けられました。年間を通じて、34人の退会者がいましたが、46人の入会があったので、プラス・マイナス12人の増加となり、全会員数が300人の大台に乗りました。

    退会者は、大多数が、特定のプログラムの参加者ではなく、バッハの森の活動全般に興味を持ったけれど、遠方に住んでいるため、なかなかバッハの森に来ることができないので退会する、という理由でした。これに引き替え、入会者は、研究会、合唱などの学習プログラムに参加した人々が14人、音楽教室が10人、公開講座が5人、ワークショップ/フェスティヴァルが7人、その他が10人の計46人でした。 

 このように、最初から参加目的がはっきりしている人たちが入会し、漠然と入会した人たちは退会してゆくという現象が、最近数年間の会員移動の傾向です。これは、バッハの森が「学習コミュニティー」の形成という目標をはっきり表明したことと関係があります。

 はっきりした目的を持つ会員が増えたため、活動自体はより活発になりましたが、問題も生じました。16年前の創立時に会員になってくださった方々の中には、遠方に住んでいたり、多忙を極めているため、バッハの森のプログラムには参加できないが、バッハの森を援助しようという方々が相当数いて、現在もなお援助を続けていてくださいます。大多数が賛助会員です。これらの方々の会費の性格は寄付に近く、いつも深い感謝の念をもっていただいております。

 しかし、16年の歳月が経つうちに、賛助会員数が年々減少したことはやむを得ないことでした。92年に106人いた賛助会員が99年は71人になりました。99年度決算も、多くの方々の「持ち寄り」にもかかわらず、約50万円の赤字でした。赤字解消の一つの解決策は賛助会員を増やすことです。良い考えのある方は教えてください。



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